拝啓
木枯らしの後は小春日和のような屋久島。
そんな初冬の長~~~い一日の始まりは、
青空の元、昼前に出かけた永久保の「くらしの店ながくぼ」さん。
閉店に伴い、食料品や洗剤などを除く全品半額セール中。
屋久島とご縁をもって15年以上になりますが、この前をいつも素通り。
今回初めて入店し、ここがいわゆる「万(よろず)屋」さんだったと知りました。
いわばトラディッショナルなコンビニエンスストア。
置かれた商品はキッチン用品を中心に、各種履物などまで多種多様。
聞けば、「くらしの店ながくぼ」さんは昭和20年代に永久保集落の運営で始まったお店。集落での管理が難しくなった26年前から備さんが店主となり委託販売されていたとのこと。
集落の事情とはいえ、80年近く守られてきたお店が閉じるというのは寂しいことです。
お店が存在した事を記憶に留める記念も兼ねて、頂いて帰ったのがこちら。
萬古焼の土鍋と神戸マッチの日の丸扇徳用マッチ。
火を焚いて調理をする鍋とマッチは暮らしの基本、人類の文明の象徴かと。
分けても萬古焼きにはタジン鍋以来の思い入れが。
六角堂スパイシーブックカフェでもかつて、タジン鍋料理をご用意したことも。
萬古焼とは?特徴・種類・窯元・人気作家・歴史のあれこれ | 大人の焼き物 (otonayaki.com)
いい買い物ができたとホクホクしながら、
ランチタイムには早かったものの、
ここまで来たならついでに何かお腹に入れようと向かったのが長峰の樹林さん。
ちょっと遅めのモーニング気分でトーストセットを頂こうかと思ったものの、
注文したのは「チキンカツ丼大盛り」と珈琲。
先日頂いた春牧の「みち草」さんのカツカレーのカツや宮之浦の「すばらしい」さんのチキンカツカレーのカツとはまた違って、
「みち草」と「すばらしい」の カツカレー&Kiinaの栗鹿の子 屋久島カレー事情第123回&屋久島ボンボンポイ第76回 - 屋久島六角堂便り~手紙
何やら穏やかな温もりに溢れておりました。
そして何より、心惹かれたのがそのブドウ模様の器。
完食後、その器の底のブドウがきちんと正面を向いているのを見て感嘆。
誰も気に掛けないような気配りに、樹林さんの心意気を感じました。
火を使うことが他の動物との大きな違いとなったものの、それがやがて地球をも滅ぼしかねない火を生み出すことになった人類。
野生の植物を採取して生きるだけのサルから、
農耕栽培を始めて酒に酔いしれるまでになったヒト。
中でもブドウは世界最古の果物の一つと称されるほど。
そしてワインは紀元前6000年頃、もしくはそれ以前から作られていたとの推測も。
キリスト教でもミサの聖体拝領で使われるのは、キリストの血に見立てたワイン。
わたしはまことのぶどうの木、わたしの父は農夫である。
わたしにつながっていながら、実を結ばない枝はみな、父が取り除かれる。しかし、実を結ぶものはみな、いよいよ豊かに実を結ぶように手入れをなさる。
わたしの話した言葉によって、あなたがたは既に清くなっている。
わたしにつながっていなさい。わたしもあなたがたにつながっている。ぶどうの枝が、木につながっていなければ、自分では実を結ぶことができないように、あなたがたも、わたしにつながっていなければ、実を結ぶことができない。
わたしはぶどうの木、あなたがたはその枝である。人がわたしにつながっており、わたしもその人につながっていれば、その人は豊かに実を結ぶ。わたしを離れては、あなたがたは何もできないからである。
(新共同訳)
2022年5月15日 キリストとつながる 吉岡喜人牧師 | 南三鷹教会 (minamimitaka.holy.jp)
「信ずる者は救われる」と言いますから、神から頂いた言葉に従って平安を得られるなら幸い。
ただ、その神を信じぬ者をそしり、そこ(家庭、学校、地域、国)から追い出し、撃ち倒そうとするのは不幸の始まり。
そこで振りかざされる「真実」も「正義」も災いの元。
親子においてなお。
如何なる宗教・宗派の人々も、神を信じぬ無神論者も、
隣人同士が慈しみ合い、安心して暮らせる世界を望んでいるだろうに……
食後の珈琲を庭の奥にあるブランコをぼんやり眺めて啜りつつ、
人の欲望の果ての戦争をやめさせる手立てを見つけねば、
などと思いつつ、
世界のPeaceに思いを馳せてプカリプカリ。
(テラスやデッキで紫煙をくゆらせる貴重なお店は以前にもご案内)
静かなるひと時を紫煙とともに過ごせる屋久島の五つのテラス - 屋久島六角堂便り~手紙
と、その時。
脇に置いたスマホがチャリン。
開いてみれば……
なんじゃこりゃ~~!!
SONGLINES(@songlines_coffee) • Instagramのアップルパイのお知らせ。
前回の失敗を繰り返さぬよう取り置きのメッセージを。
この時点では、
アップルパイは1個ずつがま~~るい形をしているものだとばかり。
六角堂に戻ってあれこれ用事を済ませ、4時前に平内のSong Linesに到着。またしても駐車場はほぼ満車。
それでも何とかカウンター席に着席。
「取り置きのアップルパイ下さい!それとエチオピアの中深を。」
そして登場したのがこちら。
そうだったのか。そりゃそうだわな。
インスタの画像では小さく見えたアップルパイですが、実は大きなホールケーキ。
その6分の1が珈琲と共に。それがまた、これまで見たことのないほど大きなひと切れ。
少なくとも屋久島最大級のボリューム。
一目見て気付いたのは、使われているリンゴが「紅の夢」であること。
紅の夢とは | 紅の夢 (hirosaki-u.ac.jp)
クッキングアップル 「紅の夢」 | 秋田県横手市 デリカテッセン&カフェテリア紅玉 (kougyoku-deli.jp)
このリンゴを使った旧「はまゆ」の作品については何度かご紹介。
屋久島ボンボンポイ第19+2回 艶やかな紅の夢見しはまゆ - 屋久島六角堂便り~手紙 (hatenablog.com)
屋久島ボンボンポイ第52+2回 リンゴ可愛や第10回 湯泊 はまゆ 紅の夢と祈り - 屋久島六角堂便り~手紙 (hatenablog.com)
添えられたナイフとフォークで切り分けようとするとリンゴがゴロン。
浅く炊かれた瑞々しさが弾けました。
それをフォークで口に運ぶと……不思議な触感と味わい。
リンゴでありながらリンゴでないような、
そう、色合いと相まって、あたかもイチジクを彷彿とさせるような舌触り。
そう感じたのは、ひょっとしたら昼にブドウの歴史に思いを巡らせていたせいかも。
イチジクもまた「世界最古の栽培果樹」と称される果物。
1万1000年ほど前のものとみられる炭化したイチジク果実がヨルダン渓谷にある新石器時代の遺跡から発掘。
古代エジプトの神話では女神ハトホルの象徴としてイチジクが登場。
冥界へ行く者達にパンと乳とイチジクから作られた食物を与える役割を持ち、「エジプトイチジクの木の貴婦人」、「南方のイチジクの女主人」と呼ばれる女神。
イチジクは豊穣神デメテル(ローマ神話ではケレース)が人のために創った食物、神様が姿を変えた植物として描かれています。
デメテルは普段は温厚ですが怒ると飢餓をもたらし、ゼウスも恐れる女神様。
そして旧約聖書のモーセの五書の一つ「申命記」にはブドウと共にイチジクが登場。
人はパンだけで生きるのではなく、人は主の口から出るすべての言葉によって生きることをあなたに知らせるためであった。
あなたの神、主はあなたを良い土地に導き入れようとしておられる。
それは、平野にも山にも川が流れ、泉が湧き、地下水が溢れる土地、小麦、大麦、ぶどう、いちじく、ざくろが実る土地、オリーブの木と蜜のある土地である。
申命記 8 | 新共同訳 聖書 | YouVersion | 聖書アプリ | Bible.com
先日のブログ記事では「禁断の木の実」=「善悪の知識の木」についてご案内しましたが、
そもそもリンゴは中央アジアの北コーカサス地方が原産であり、ヘブライ人が住んでいた中近東では育ちません。
「アダムとイブは禁断の果実を食べて裸を恥ずかしがった後、イチジクの葉を使って体を隠した」と旧約聖書に記されていることから、ユダヤ教では禁断の果実はイチジクであるという解釈も。
一方東欧のスラブ語圏ではブドウとされる事が多いとも。
また、宗教画の中にもイチジクが。
アンドレア・マンテーニャの『聖セバスティアンヌの殉教』の足元にはイチジクの木。
イチジクは「羞恥」の象徴?エデンの園の甘美な果実 | / ARTLOGUE
セバスティアヌスは史上最初期のゲイ・アイコンとも言われ、
それに触発されたのが、かの三島由紀夫。
自らがモデルとなってグイド・レーニ画による殉教図を模し、
篠山紀信(今回も登場)に撮らせた写真はなんとも……
三島由紀夫の同性愛をテーマにした〈能ふかぎり正確さを期した性的自伝〉小説『仮面の告白』の中で、主人公はセバスティアヌスの殉教図を見て性的興奮および文学的感興を催し……
更に三島は、生前秘かに自分だけの墓を確保し、そこに聖セバスティアヌスのポーズをとった自分の等身大ブロンズ像を制作していたのだと。
裸体像制作の彫刻家が語る「50年前の三島由紀夫」(堀 晃和) | 現代ビジネス | 講談社(1/6) (gendai.media)
残念ながら背後の木はイチジクではありませんが、
イチジクは古来、その容姿から女性の性的な象徴ともされてきた果物。
それゆえ花言葉は「実りある恋」「子宝に恵まれる」「平安」。
一方、男性性の象徴ともされていたとの記述も。
葡萄-林檎-無花果。
その連想の楽しみを与えて下さったチキンカツ丼とアップルパイに感謝。
している間に夜は深々と更け、足元には冷気がヒタヒタと。
何やら凍えたマッチ売りの少女が思い起こされ。
そういえば、「くらしの店ながくぼ」さんで買ったマッチの図柄は日の丸。
これが三島由紀夫を゙呼び寄せてくれたのかもと。
今回もまた、取り留めない長文にお付き合い下さり、誠にありがとうございました。
敬具
追伸
尾之間のパンドシュクルさんの新作、フランス産イチジク使用の「フィグ」登場。
サクッパリの生地と濃厚なイチジクの味わい。
季節の味わい「ココマロン」と共にお薦めの逸品です。
パン・ド・シュクル(@sure.310) • Instagram写真と動画