屋久島六角堂便り~手紙

自然と人が織りなす屋久島の多様性を屋久島六角堂から折々にお伝えします

リンゴブギウギ ⑦ エバと私がリンゴに惹かれたわけ Trip Curry & Oashisu & Song Lines (屋久島ボンボンポイ第77回)

拝啓

そもそも好きな果物の五本の指には入らぬリンゴ。

ですがひとたび、

たっぷりバターとレモン果汁、シナモンとラム酒を加えてオーブンで焼き上げた焼きリンゴは別格。

香りを嗅ぐだけで、何十年も前の晩秋のダイニングテーブルの記憶が蘇ります。

それはまた、

島崎藤村の初々しい恋の歌、「初恋」を呼び起こします。

まだあげ初(そ)めし前髪の
林檎(りんご)のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛(はなぐし)の
花ある君と思ひけり

やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅(うすくれない)の秋の実に
人こひ初めしはじめなり

わがこゝろなきためいきの
その髪の毛にかゝるとき
たのしき恋の盃を
君が情(なさけ)に酌(く)みしかな

林檎畑の樹(こ)の下に
おのづからなる細道は
誰(た)が踏みそめしかたみぞと
問ひたまふこそこひしけれ

古風な七五調文語自由詩はソネットにも似た起承転結のお手本のような作品。

 

この秋始めた「リンゴブギウギ」も秋の終わりとともに閉幕。

その千秋楽の舞台に立つ三人の女優をご案内。

 

1人目は、

Trip Curryさんの「たっぷりりんごのガトーインビジブル

Gâteau=ケーキ、 Invisible=見えない。

フルーツを非常に薄くスライスし、生地で包み込んで焼き上げるので、フルーツがケーキの一部となったかのように埋もれて見えなくなるからだとか。

 

まずはホールスパイスの香りと触感愉しい「四川風ポークカレー」を。

ゴロリとした豚肉の旨味が嬉しい。

そしてスパイスチャイと共に「ガトーインビジブルを。

 

visibleですがそこはそれ。

リンゴは長野産の「シナノスイート」を使用。

これからも固定観念に縛られない創意工夫で、

様々な四季の味わいを生み出していただければ幸い。

𝗧𝗥𝗜𝗣 𝗖𝗨𝗥𝗥𝗬 ❤︎ トリップカリー 屋久島(@trip_curry.yakushima) • Instagram

 

二人目は、

オアシスさんの食後のデザート「リンゴとさつま芋の包み揚げ」。

“RingoRingo”とうるさい私を慮って、リンゴのデザートを試行錯誤して下さったオアシスママさん。

週始め、「今週のランチ」味噌カツ定食を頂いた折、

研究中のリンゴの春巻き包み上げを試しに出して下さいました。

そこでしばしのディスカッション。

そのニ日後、

オアシスさんのInstagram「デザートはリンゴとさつま芋の包み揚げ」の案内。

そこで翌日いそいそと。

デザートも付く「月替わりパスタ」(ナポリタン)と、

初体験にふさわしいよう屋久島産コーヒー」も頂くことに。

※ ごはんと一緒だと屋久島産コーヒー200円引き。

天麩羅やトンカツやラーメン、あるいはライスカレー同様、立派な和(日本)食であるナポリタン。

クルクルアグッの一口ごとにほっこりと。

そしていよいよ、リンゴとさつま芋の包み揚げ&屋久島産コーヒーとのご対面。

コーヒー豆はご主人が平内の畑で栽培されたもの。

スッキリとした味わい。

酸味は低く爽やかな苦味が広がります。

そして包み揚げは……

パリサクッとした皮の歯ざわり。

リンゴの滑らかな舌触りと芋の口溶けが絶妙。

酸味が爽やかなので、味噌カツ定食のデザートにもよろしいかと。

包み揚げの新バージョンを期待しております。

おうちごはん オアシス(@ouchigohan_oashisu) • Instagram

 

そして三人目、

トリを務めるのはSong Linesさんの「リンゴタルト」。

あの憧れの六角形の一片を頂ける日がやって参りました。

六等分に切り分けられ、

薄紙に挟まれたリンゴタルト

そして偶然巡り合ったのが秘蔵の新人「島レモンのギモーヴ」(マシュマロ)。

加地中深珈琲と共に頂くことに。

タルトの生地はサクッと軽く、

紅玉りんごはトロリと溶けて、食むごと香るアーモンド。

もう一切れ六角堂に連れ帰ろうと声掛けましたが、あっという間の完売で欲は叶わず。

 

島レモンのギモーヴは、得も言われぬフワシュワトゥルン。

清楚な純白のドレスを纏いつつ、人を惹きつけて止まない魅惑的な女性。

 

似ている。

不破福寿堂の「かのこ姫」に。

唯一無二のふわふわ食感、羽二重餅と金時豆のハーモニー「鹿の子餅」 | 日本全国お取り寄せ手帖 (otoriyosetecho.jp)

富山名産の『羽二重餅』は、すべやかな加賀羽二重の絹をイメージした真っ白な餅菓子。
本来は米・砂糖・水飴たった三つの材料で作るそうですが、お店によって独自に様々なアレンジを。

福井県の代表銘菓|美味しい羽二重餅が買える厳選5店 - SweetsVillage(スイーツビレッジ)

「かのこ姫」の特徴は卵白を練り込んだ羽二重餅金時豆を散らした触感。

 

あれは何時のことだったか。

初めて羽二重餅を口にした時の夢見心地。

菓子折りに行儀よく納まった餅の白粉の艶やかさ。

つまんだ指に伝わる柔らかな触感。

口に運んでとろけにとけた舌触り。

今なおここに蘇ります。

 

それは多分半世紀近く前、

昭和の後期。

山口小夜子に憧れて、

駅前の化粧品屋のおばちゃんに頼み込んでもらったポスターを部屋の壁に貼っていた高校生の頃。

怪しさ、艶めかしさを秘めながら人を惹きつけるピュアな透明感。

山口小夜子羽二重餅は記憶の奥底で結びついてきたのかも。

それは「ヒトにとって化粧とは何か?」を考えさせてくれた原点。

その流れの中、

六角堂明冥文庫には化粧や身体装飾に関する本が50冊ほどございます。

よろしければお茶のお供に。

 

それから時は流れて平成末の2018年。

資生堂は6人の女優を起用した「表情プロジェクト」を立ち上げ。

「資生堂 表情プロジェクト」、第3弾プロモーション開始 資生堂 企業情報 (shiseido.com)

コンセプトはこちらのpdfファイルに。

2169_b9r12_jp.pdf (shiseido.com)

そこには、宮沢りえ(1973年生まれ)や樋口可南子(1958年生まれ)の姿も。

1991(H3)年、

樋口可南子宮沢りえ篠山紀信による過激な写真集を刊行し一世を風靡。

先に樋口可南子33歳がモノクロのWater Fruit」を。

続いて宮沢りえ18歳がカラーのサンタフェ」を。

当時勤めていた学校の教え子たちは宮沢りえに衝撃を受けておりましたが、

樋口可南子と同い年の私は「りえさんもいいけどね……」。

1978年、女子美術大1年の時にスカウトされ、今や芸能生活45年。

同じ時代を辿った私は何本もの映画で親しんで参りました。

寅さんのマドンナは別格(DVD持ってます)として……

ちょっと待て、樋口可南子が演じるマドンナの名は「若菜」

おお、なんと!

先に紹介した島崎藤村の詩「初恋」が納められている詩集の名は若菜集

これはまた奇遇、でもないか。

 

渡辺謙と共演した明日の記憶や、

寺尾聡と共演した阿弥陀堂だよりは心に残る名作。

 

その樋口可南子

Actress Kanako Higuchi Interview
TOKYO, JAPAN - SEPTEMBER 29: Actress Kanako Higuchi speaks during the Asahi Shimbun interview on September 29, 1978 in Tokyo, Japan. (Photo by The Asahi Shimbun via Getty Images)

似ている。

などと口にすれば、またまた怒られるのは承知の上ですが、

Song Linesのパティシエが産み出すタルトの透明感、

洋風羽二重餅とも言うべき純白の光を宿したギモーヴの艶めく触感は、

名モデル、名女優に通ずるところありと確信。

SONGLINES(@songlines_coffee) • Instagram

 

なぜ人はリンゴに心惹かれるのか。

それは人々の意識の片隅に宿る「罪」を刺激するからかも。

 

旧約聖書の創世記第一章で、

神は七日間で天地を創造され、

最後に「神にかたどって」男と女を作られた

 

よく勘違いされますが、アダムとイヴ以前に人は存在していたのです。

 

第二章で神は、

土(アダマ)の塵から新たに人(アダム)を作り、

エデンの園に住まわせ、

その中央に「命の木」と「善悪の知識の木」を生えさせ、

「善悪の知識の木」の実は絶対に食べてはならぬと命じた。

さらに神は、

人から肋骨を抜き取って作られた分身、伴侶となる女が生み出され、

男(イシュ)は父母と別れて女(イシャー)と暮らすことに。

そして第三章で、

「主なる神が作られた生き物のうちで、最も賢い」蛇が

女に善悪の知識の木の実を食べれば「目が開け、神のように善悪を知るものとなる」そそのかした。

女はそれを食べ、渡された男もそれを食べた。

それは神の知るところとなり、

女には「孕みの苦しみ」、男には「労働の苦しみ」が与えられた。

そこでアダムは、

女をすべての生き物の命あるものの母としてエバ=命」と名付けた

 

ここで始めてアダムとエバ(イブ)が成立。

 

ところが神はさらに、

「人は我々の一人のように、善悪を知るものとなった。……命の木からも取って食べ、永遠に生きる者となるおそれ」を抱き、

人をエデンの園から追放した。

これがいわゆる失楽園の顛末。

 

落ち着いて聖書を読み返せば、

「女は罪深い」というイメージの刷り込みが晴れるというもの。

女は「知性や理性」を手に入れたくて木の実を食べ、男はそれを受け入れた共犯者。

神は自らをかたどって人を創造したにもかかわらず、

人が自らの判断に必要な知識や理性を持つことを嫌い、

人が神と同じ存在になることを恐れて追放しただけ。

なんとも「人間臭い」神様です。

自分の支配から逸脱しようとすることを「罪」とし、

「罰」を与えようとするのは小心・臆病の裏返し。

どこぞの会社や学校のパワハラ上司や先輩、

そこここの家の隠れDV夫とかわらないのでは……

 

だからこそ、ユダヤ教徒だったイエスは新たな預言者となって、

新たな神の言葉を人々に伝え、

それ故、磔にされたのだとも。

 

いずれにせよ、

人が自らの内に宿す「罪」の存在はの自覚は、誰であれ意味があるかと。

「罪」とセットの「罰」に怯えて正義の旗を振りかざし、

他者・他の神様を非難・糾弾・弾圧するのではなく、

何かしら自らが抱える「罪」を意識することでこそ、

他者に対して寛容になれるのかも。

 

そもそも「善悪の知識の木」は聖書のどこにもリンゴだと書かれていません。

しかし、創世記をテーマにした叙事詩失楽園」(1667年出版)に、

禁断の果実が「リンゴ」と記され、

それ以来、エバが食べたのはリンゴとなったとのこと。

旧約聖書でアダムとイブが食べた「禁断の果実」はなぜリンゴで描かれることが多いのか? - GIGAZINE

 

罪を秘めた知恵の実リンゴ。

神に楯突き自己を主張する木の実。

それだからこそ、リンゴは人を魅了するのかもしれません。

 

六角堂にはキリスト・ユダヤ教関連図書が50冊ほどあります。

よろしければお茶のお供にどうぞ。

 

と言う訳?には何もなりませんが、

この秋のリンゴブギウギは閉幕。

年内に特別編を上演できれば幸いです。

敬具。