屋久島六角堂便り~手紙

自然と人が織りなす屋久島の多様性を屋久島六角堂から折々にお伝えします

2021年 古事記の旅 第4回 ヒルコ⇛えべっさん⇚コトシロヌシ ご出身はどちらでしょう?

拝啓

一月十日、屋久島の原漁港では粛々と神事が。

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※ 島のカヤックガイド「サウスアイランド 」のフェイスブックから画像を拝借いたしました。

 

漁港のある集落には必ずと言っていいほど祀られているヱビスさんの様子は、5年前にもブログ特集島の恵比寿さんでご案内いたしましたが、「2012年古事記の旅」ではバージョンアップを。

そこで今回は、ヱビスさんについてちょっとばかりのおさらいと、参考図書の紹介をさせて頂きます。

 

七福神の一員恵比寿様は『えべっさん』と親しみを込めて呼ばれる関西の人気神。
大阪市今宮戎神社兵庫県西宮市の西宮神社、そして京都市京都ゑびす神社の3神社が「日本三大えびす神社」

今年はコロナ対策でどちらのえべっさんも三密回避。

今宮戎神社は福笹も祈祷も郵送。

西宮神社では福男の認証中止。

京都ゑびす神社では縁起物の授与を2月2日まで延長。

お参り一つも大変です。

六角堂では年替わりで西宮と京都の福笹を頂戴してまいりましたが、

実はこの二つの神社のえべっさんは別系統。その由来を今回ご案内しようと。

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Ⅰ. 二系統のヱビスさん

えべっさん

イザナギイザナミの第一子ヒルコが由来とする説と、

スサノオの末裔であるオオクニヌシの息子コトシロヌシであるとする説があります。

神さんの家系図でまずはザザッと確認。

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「あなにやし~神話と神様と神社のこと~古事記による神様の家系図」のイラストを拝借、加筆加工させて頂きました。https://kojiki.138shinsekai.com/kamisamakeizu/

 

ヒルコ系

古事記で登場する「水蛭子(ヒルコ)」はイザナキ(伊耶那岐命)とイザナミ(伊耶那美命)との間に生まれた最初の神。

しかし、子作りの際に女神であるイザナミから先に男神のイザナキに声をかけた事が原因で不具の子に生まれたため、葦船に入れられオノゴロ島から流されてしまう。

そのヒルコの漂着先の伝承が全国各地に。

中でも、えびすという名の神を祀った神社として現存する記録上最古なのが兵庫県西宮市の西宮神社

なのでえびす神社の総本社に。

ヒルコは西宮に漂着し「夷三郎殿」と称されて、海を司る神として祀られたとされています。

えびす宮総本社 西宮神社 公式サイト - 由緒 御鎮座伝説 

 

西宮神社の祭神が「ヒルコ」「オオクニヌシ」「スサノオ」の組み合せであるのが、

次のコトシロヌシ系と関わるようで興味深いところ。

 

コトシロヌシ

記紀神話の国譲りの項で、大国主神オオクニヌシ)の使者が事代主(コトシロヌシ)に国譲りの要請を受諾するかを尋ねたとき、事代主が釣りをしていたとされることでヱビスさん=海の神と結びつけた説。
七福神の絵図でえびすが釣竿を持ち鯛を釣り上げた姿で描かれるのは、この伝承に基づくものだと。

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事代主の父である大国主命が大黒天と習合したことで、ヱビス・ダイコクは親子扱い、ペアでお祀りされることも多々。

屋久島の麦生のヱビス団地でもお二人仲良くシェアハウス。

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ヱビスさんをコトシロヌシだとする神社の代表格は大阪の今宮戎神社

今宮戎神社ホームページ

えびす神は耳が遠いとされているため、神社本殿の正面を参拝するほか、本殿の裏側に回りドラを叩いて祈願。

このため、今宮戎神社などでは本殿の裏にドラが用意されています。

まずは本殿に手を合わせ「商売繁盛、よろしゅう頼みます」とお願い。

その後、本殿の後ろにまわり、壁にかかっている銅鑼を「ジャーン」と叩き、

「わかってまんな、商売繁盛でっせ」と念押しするのが本式だとか。

 

京都ゑびす神社の祭神もコトシロヌシ

正式名称は「八代言代主大神(やえことしろぬしのおおかみ)」

こちらは本殿の脇の板壁をゴンゴン叩くのが習わしです。

京都ゑびす神社【由緒】

 

Ⅱ. えべっさんの参考図書

通例の由来は上記のようなものですが、

それとは異なる様々な「説」も。

戸矢学著『ヒルコ 棄てられた謎の神』(河出書房新社には

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ヒルコはヒルメ=大日孁貴(オオヒルメノムチ)=天照大神(アマテラス)の弟。

鹿児島神宮大隅八幡宮)に伝わる「震旦(シンタン)国・陳大王」の娘は「大比留女御子(オオヒルメノミコ)」の逸話から、

ヒルコもまた大陸からの渡来神であると同時に、海を活躍の場とした「海人族」に関わる神であると論じています。

 

また、久慈力著『七福神 信仰の大いなる秘密』(批評社には

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「えびすは、もともとメソポタミアで活躍し、イシン王国を築き、南海シルクロードを経由して東南アジア、中国、日本にも進出したエブス人からきている」という論を展開。

他の七福神の来歴解説も併せ読むと退屈しません。

 

そして、もう一冊は新人物往来社編『日本のまつろわぬ神々 記紀が葬った異端の神々』

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日蓮宗の僧・英智院日宣のヒルコを中国古来の「五行説」から解く説。

「蛭児が福神(エビス)となった理由」は「土生金というて、土より金を生ずる。町人商人これを信じて福神を祀る」と紹介。

六人の筆者の様々な論説は読んでいて飽きません。

 

また、ヒルコについては

岩波ジュニア新書『世界の神話』(沖田瑞穂著)の「9 オセアニアの神話」で、

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ニュージーランド(やポリネシアやハワイ)の神話に登場する「マウイ」が、

「半神半人のマウイは未熟児として生まれたため、母のタランガが髪にくるみ海に捨てて……やがて祖先に拾われて」育ち、やがて太陽を支配するエピソードを紹介。

ヒルコは「日ル子」であり、アマテラス以前の太陽神であったとしています。

サクッと知りたい方はこちらのサイトをご参考に。

マウイとは【ピクシブ百科事典】

 

そして屋久島のヱビスさんを総覧したい方にお薦めなのは、

屋久島エコガイドの太田五雄氏と屋久観光協会ガイド部会員の三橋和己氏の共著

屋久島の神と仏 神社仏寺・山岳宗教・民俗神』。

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2020年11月に自費出版された希望者限定本を先日入手。

ヱビスさんについても30ページ以上にわたって写真付きで詳述されています。

 

いずれの本も六角堂ちんたらブックカフェの書棚にございますので、お茶のお供にご覧ください。

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本を読むのはちょっと大変というのであれば、こんなサイトでサックリと。

七福神「えびす様」の御利益とは?~えびす様は「釣り人」の神様だった~ 

 

次回は島で一番神様の多様性豊かな小島集落をご案内。

6kakudo-tegami.hatenablog.com

敬具

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