拝啓
旧年中のご愛顧に感謝し、皆様方のご多幸を祈念して、
『古事記』に登場する島の神々を巡る新シリーズ、
5年前に綴ったヱビスさん巡りの記事「島の恵比寿さん」の改訂版ともなる
「2021年古事記の旅」をお年賀に。
元旦の朝は初日の出に「今年もよろしゅうおたのもうします」と一礼。
その日の内に巡った先は三集落の神さん達。
① 麦生の
「大山祇命(オオヤマツミノミコト)」を祀る森の神社やヱビスさん等。
② 原の
「火遠理命(ホオリノミコト)」祀る原益救神社やヱビスさん等。
③ 尾之間の
「宇迦之御魂神(ウガノミタマノカミ)」を祀る保身(ウケモチ)神社やヱビスさん等。
① 神さんの系譜
集落の神さんの佇まいをご案内する前に、それぞれの神さんの関係をおさらい。
今回のシリーズは原則『古事記』をベースに展開。
ⅰ ヱビスさん
まずはヱビスさん。
恵比寿、恵比須、戎などとも書きますが、蛭子とも。
『古事記』でイザナギ(伊耶那岐命)とイザナミ(伊耶那美命)の国産みで、
最初に産まれた神さんがヒルコ(蛭子)。
そのヒルコが紆余曲折の末に七福神の一人、ヱビスさんになったという説も。
一方でスサノオの子孫、オオクニヌシの息子コトシロヌシが起源だという説も。
ヱビスさんの由来特集はこちらでどうぞ。
ⅱ オオヤマツミ・ホオリ・ウガノミタマ
ヒルコが捨てられた後に誕生するのが……
② オオヤマツミノミコトの娘の木花之佐久夜毘売(コノハナノサクヤビメ」の息子(オオヤマツミの孫)が火遠理命(ホオリノミコト)=山幸彦。
③ イザナギとイザナミから産まれた三貴神(アマテラス・ツクヨミ・スサノオ)の一人、スサノオの娘が宇迦之御魂神(ウガノミタマノカミ)。
こちらもオオヤマツミの孫。
関係は神さん家系図でご確認を。
「あなにやし~神話と神様と神社のこと~古事記による神様の家系図」を拝借、加筆させて頂きました。
https://kojiki.138shinsekai.com/kamisamakeizu/
と言う訳で、
走行距離31万5000㎞を越えた京都ナンバーのままのステップワゴンでちんたら出発。
Ⅰ. 麦生
『屋久町郷土誌 第二巻 村落誌 中』P433には
麦生の神さんの地図が。
地図には残念ながらヱビスさんの祠は載っていません。
また正八幡神社(向の神社)は今回パス。
① 弓矢八幡
今回はまず、麦生のグランド山手、
公民館の裏にある「弓矢八幡神社」へ。
同8 麦生村落誌435ページによれば、
「祭神は応神天皇。1686年の創設。ご神体は高さ24㎝の木製で、赤青で彩色され、矢を持った武者姿」だそうですが、拝顔叶わず。
八幡様についてはまた後程特集を予定しております。
ここで注目したいのは鳥居の根元に飾られた「門松」。
同8 麦生村落誌435ページによれば
使われるのはシイやマツの小枝。そしてシイの木・マテの木・コヤスの木を二尺に切って小割にし、門松の根元に左右五本ずつ縛り付けるのだそう。
② 本慶寺
八幡さんでお参りしたのち、
先に進むと法華宗「本慶寺」。
島の法華宗についてもいずれご案内をいたしますが、
こちらにも同様な門松が。
③ 森の神社
その先の坂を登り、左手に入る山道に鳥居が。
オオヤマツミノミコトを祀る「森の神社」の入り口。
門松の間をくぐって通れば、梅雨時には緑の苔むす絨毯と化す参道の先に鳥居。
その先の階段をググっと登れば。
森の神社の祠(ほこら)。
同8 麦生村落誌435ページによれば、
祠の扉が開かずの扉でご神体は確認できていないとのこと。
古事記では大山津見と表記される大山祇の読みは、
オオヤマツミ、オオヤマヅミ、オオヤマズミといろいろ。
大山祇の「祇」(祇園神社のギ)は土地の神(国つ神)を表す漢字。
ヤマツミの「ツ」は「ノ」の古語、「ミ」は神霊の意を表すので、
神名は「おおいなる山の神」の意味。
本来は農事に水を供給したりする山の神信仰から生じた女神だったのが、説話化される過程で男神とされたものだとか。
また、瀬戸内海に浮かぶ愛媛県大三島の大山祇神社では「航海神&鉱山神」として敬われているのも興味深いところ。
さらに……
古事記に記された興味深いエピソードは次のような内容。
オオヤマツミはコノハナノサクヤビメとその姉のイワガビメをアマテラスの孫であるニニギノミコトに差し出した。
ところがニニギは容姿が醜いイワナガヒメを送り返す。
するとオオヤマツミはそれを怒り、
「イワナガヒメを添えたのは、天孫が岩のように永遠でいられるようにと誓約を立てたからで、イワナガヒメを送り返したことで天孫の寿命は短くなるだろう」と告げた。
現代では一夫多妻はご法度ですが、なかなか含蓄のある話です。
山を下って県道を渡り、
集落の中の道を漁港に下る坂の途中に麦生のヱビス団地が。
上段左手の建屋にお住いのヱビスさんは、日本一の美男子ヱビスと称される武士のようなりりしいお姿。
左わきに抱えていらっしゃるのはタイではなく青いカツオ。
一方、
上段右手の建屋にお住いのヱビスさんはお顔が崩れて痛々しいお姿。
左脇に抱えていらっしゃるのは赤いタイ。
『屋久町郷土誌 第四巻 自然・歴史・民俗』P905には、
麦生の恵比寿さんの詳細が。
そこには
「麦生では、一月十日に大漁祈願をするが、四月十日の岳参りの日には木像A(右手のヱビスさん)、B(左手のヱビスさん)を塗り替えて、港でヱビス祭りをし、トビウオの大漁祈願をする」
「Bは……毎年着色し、きれいである。……憂いを含んだ魅力のえびす神である」
と書かれています。
麦生でトビウオ漁がされなくなった後、そうした習いもなくなったのか、淋しいお姿に心痛みます。
また左手の建屋のカツオのヱビスさんの
左脇には小さな社があって、愛らしいヱビスさんとダイコクさんが並んで鎮座。
右脇には彩色されたダイコクさんがこれまた痛々しいお姿。
ヱビスさんは出雲のオオクニヌシの息子コトシロヌシがモデルとの説もあり、
オオクニヌシ≒ダイコクさんとコトシロヌシ≒ヱビスさんが仲良くペアで祀られるお姿も島内各所に。
下段の石柱も神々。
向かって左は「竜王様」
中央は「竜神様」
右端が「ヱビスさん」ですがどんな魚を抱えていらっしゃるのかは不明のよう。
※右端の石柱は、『屋久島の神と仏』(太田五雄・三橋和己著)P272では、ヱビスさんではなく「作の神様」(農具などの神様)と案内されています。
1984(S59)年、点在していたヱビスさんが現在地に集まりヱビス団地になったとのこと。
ヒトに祀られてこそのカミさん。またカミさんに見守られてこそのヒトの暮らし。
神さんのお姿は里の暮らしの変遷を現すものかもしれません。
⑤ 水神様
なお、麦生にはグランド西角、公民館への入り口県道際に「水神様」が一体。
「ポンカンタンカンの里」広告塔のすぐそば山手、
開田記念碑の脇にも「水神様」がいらっしゃいます。
次回は麦生の西隣、原の神さん達をご案内いたします。
敬具
2015年に屋久島ヱビス様を巡った「島の恵比寿さん」シリーズはこちらから。
追伸
すでにお気付きの方もいらっしゃるかとは存じますが、今回のシリーズ名は人工知能を備えた架空のコンピュータ「HAL9000」が登場するスタンリー・キューブリック監督の映画「2001年宇宙の旅」(1968年公開)と「2010年宇宙の旅」(1984年公開)のもじり。
昨年末に産まれた孫「陽」(HARU)への誕生祝いも兼ねて。
悪しからず。