屋久島六角堂便り~手紙

自然と人が織りなす屋久島の多様性を屋久島六角堂から折々にお伝えします

埴生窯の神獣で招福来運

拝啓

山から吹き下ろす風に、思わずウインドブレーカーを羽織る屋久島。

そんな中、コテージにご滞在のお客様を島の陶芸家山下さんの陶房「埴生窯」さんまでご案内。

それは六角堂に鎮座する埴生窯の龍にご興味を持たれてのこと。

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六角堂から車で約15分、ヤクスギランド線の朝日弁当を右に折れ、松峰大橋を渡ってすぐの山道を突き当ると埴生窯。

今回は、周辺の山に散在している龍も案内していただきました。

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高価な作品が茂みに潜んでいる無造作さが埴生窯の面白さ。

また、後光が差して眼も光る龍の首も拝見。

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屋久島には龍神信仰があり、龍神の名の付く滝もまた。

龍神信仰・山姫伝説 神々の係る伝説は数しれず。|屋久島トレッキング・観光情報

龍=蛇は洋の東西を問わず古代から「再生」の象徴とされており、

縄文土器にも蛇の文様が刻まれ、古事記日本書紀にもたびたび登場。

 

そんな蛇・大蛇(おろち)・龍にご興味をお持ちの方には、

吉野裕子著『蛇  日本の蛇信仰』(講談社学術文庫がお薦め。

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繰り返し脱皮する性質が命の再生を想起させ、

特殊な性器の形状によりハブに至っては交尾が26時間にも及ぶ濃厚な生殖活動が種の繁栄を思わせるきっかけに。

神社の注連縄や、列島南方に多い十五夜の綱引きの綱も蛇の見立て。

正月の鏡餅もまた、とぐろを巻いた蛇を象徴するものだというのが吉野氏の説。

同書「第四章 鏡餅考」には屋久島の「トシノカミ」さんの習俗も記述されております。

 

そんな蛇談義を埴生窯でしているうちに、話題は干支に。

一昨年、亥年を迎えるにあたって猪をモチーフにした作品をとご提案したところ、

焼き上がった作品が六角堂にも鎮座。

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荒々しさとかわいらしさが同居した、如何にも埴生窯さんらしい猪に。

で、

来年は丑年と言うことで、

思い付いたのが高橋留美子作『うる星やつらに登場する、

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ラムちゃんの幼馴染で元婚約者レイ

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【うる星やつら】鬼族のレイはどんなキャラ?ラムとの関係や変身後の姿も解説 |

大人のためのエンターテイメントメディアBiBi[ビビ] (bibi-star.jp)

何やらそのユーモラスな姿が、埴生窯さんのイメージと重なり、

漫画家の奥様の趣味にも合うのではないかと。

 

その思い付きのきっかけは……

「埴生窯さんの龍は麒麟に似ている」とおっしゃったコテージのお客様の一言。

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麒麟と言えば中国の神獣。

牛に似た神獣と言えば、

山海経』に記された「軨軨」(レイレイ)。

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中国神話の奇妙な牛の怪物を集めてみた。怪牛特集1(軨軨、孰胡、呲鉄、精精、那父、領胡、豲、犀渠) (prometheusblog.net)

先日、

石田栄一郎著『新訂版 桃太郎の母』(講談社学術文庫に収められた論稿「桑原考」の神婚説話の一節に軨軨が記されていたのを読んだばかり。

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そんな訳で、

うる星やつら』のレイとは、このレイレイがモデルなのではと思い当たった次第。

ホンマかどうかは知りませんが。

某電力会社のCMで深田恭子演じるラムちゃんが耳目を集めたと聞く昨今。

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しかも、世間は「鬼」ブームだとか。

レイと言うか、レイレイを模した干支の置物はイケルのではと。

 

ただ、

「軨軨」(レイレイ)は「一度出現すると天下に水害が起こる」と言われる妖獣。

正月の縁起物にはどうかと言うご意見もあるかと。

 

そこで思い付いたのが……

京都の祇園

疫病退散を願う八坂神社の祭神、牛頭天王(ごずてんのう)。

牛頭天王は全国各地に祭られ、

埼玉県飯野市の竹寺の牛頭天王さんの雄姿はなかなかのもの。

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竹寺

 

さらに又、

牛(水牛)に乗った六面六臂六脚大威徳明王(だいいとくみょうおう)は、

6つの顔は六道(地獄界、餓鬼界、畜生界、修羅界、人間界、天上界)を隈なく見渡し、

6本の腕は矛や長剣等の武器を把持して法を守護し、

6本の足六波羅蜜(布施、自戒、忍辱、精進、禅定、智慧)を怠らず歩み続ける決意を表すとされているとか。

六が三つも並んで、六角堂にも縁起がよさそう。

そのお姿は全国各地に。

沖縄県那覇市「勝龍寺」の大威徳明王

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滋賀県東近江市「石馬寺」の大威徳明王

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京都市「東寺」の大威徳明王

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と、徒然なるままにキーボードを打っている夜半、島の南部は二度も停電。

 

不安に暮れる師走だからこそ、

アホ臭く見える思い付きをも形にして、招福来運と参りたいものです。

敬具

追伸

書き終わった後、埴生窯さんには以前、インドの神さんシリーズをお願いしたことを思い出しました。


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