屋久島六角堂便り~手紙

自然と人が織りなす屋久島の多様性を屋久島六角堂から折々にお伝えします

屋久島あんぱん巡礼 第四回 島の南のあんぱん三昧

拝啓

アンパンマンの作者やなせたかしの業績の一つに『三越』の包装紙のデザインがあげられることもあるようですが……

正確には、包装紙のデザインは猪熊弦一郎氏によるもの。
そこに当時三越の宣伝部に所属していたやなせのレタリングで「mitsukoshi」のロゴが入れられたというのが事実。

cp.mistore.jp

彼は千葉大学工学部デザイン学科卒業後に現田辺三菱製薬宣伝部に就職し、

戦後は高知新聞社の『月刊高知』編集部で編集の傍ら文章、漫画、表紙絵などを手掛け、
上京して三越の宣伝部でグラフィックデザイナーとして活動する傍ら漫画を描き、

三越を退職して専業漫画家となったとのこと。

「好きを貫く強さ」こそがやなせたかしの最も大きな特徴かも。

 

屋久島巡礼の旅の最終回は尾之間の二軒の自家製パン屋さん。

その一軒目はPain de Sucre=砂糖パン=佐藤さんちのパン

その店内には一枚の張り紙が。

さすがパン屋の娘と感心しておりましたが、聞けば硬筆習字のお題がたまたまこれだっただけで、娘さんはあんぱんはそれほど好きではないとのこと。

それでもそれを店内に張っているのは、パンが好き、パンを焼くのも、食べてもらうのも、仕事にするのも好き!というオーナーご夫妻の思いの表れなのだと。

 

その思いの結晶のようなあんぱんがこちら。

桜の塩漬けのトッピングがなんとも愛らしく

その塩気と餡の甘味が程よく調和した逸品。

そもそもあんパンは1874年(明治7年)に茨城県出身の元士族・木村安兵衛とその次男の木村英三郎によって考案された日本発祥の菓子パン。
当時はイースト菌が手に入りにくかったため木村屋では酒種で生地を発酵させのだとか。
4月4日は「あんぱんの日」とされている由縁は、表面のアクセントに用いられる桜の花の塩漬けが初めて用いられ天皇に献上された1875年(明治8年)4月4日を記念してとのことだとか。

※ あんパン - Wikipedia より

www.ginzakimuraya.jp

 

Pain de Sucreの『小倉わかばと名付けられたあんパンは初夏そのもの。

日本文化の特徴である食の季節感に乏しい屋久島にあって、こうした感性は貴重な存在。

 

胡麻粒あんパンや

あんバターパンも

同じ餡だろうと思いますが、それを包むパン生地の違いで様々な味わいに。

カボチャの種もトッピングされたカボチャあんぱんは何やら叫んでいるようにも。

薩摩芋との組み合わせの食感もまた楽し。

ご主人がホテルのベーカリー勤務に戻られて久しく、奥さんと女性スタッフさんの二人でかくも華やかにパンを焼き上げていることに敬服。

パンドシュクルさんの詳細はInstagram

https://www.instagram.com/sure.310/?hl=ja

 

同じ尾之間にはもう一軒、もう老舗と言ってもいいような『ペイタ』さんが。

阪神淡路大震災に被災した関西から移住後、間もなく開業35年を迎えんとする移住者のお店の先達。

創業者ご夫妻が引退され一時は閉店かと危ぶまれましたが、娘さんがしっかり引き継いでくださっているお店のあんぱんは独特。

スライスアーモンドの載ったあんぱん。

そしてベルリンドーナツ(ドイツ風揚げパン?)という名の餡ドーナツ。

しっかりとした食感に食べ応え十分のパンは、根強い地元のファンばかりでなく、近くのホテルに宿泊するヨーロッパ系観光客の方からも熱い支持が。

創業時から引き継がれたお店の個性をぶれずに守り続けていらっしゃる飾らなさ、質実さに好感。

一人で切り盛りする娘さんの奮闘を陰ながら応援しております。

パン屋さんではありませんが、麦生の『アラスカドーナツ』さんには

「あんドーナツ」も。

ふっくらしたドーナツの中に潜んでいるあんこをハムハムハムすると楽しい気分になります。

https://alaskadonuts.com/

 

さて、このあんぱん巡礼の旅の最後に向かったのは島の西の果て、栗生にあるパンとお菓子の店『くりおのくらし』さん。

ところが残念ながらあんパンを焼いていらっしゃいませんでした。

 

このあんぱん巡礼で頂いたあんぱんは総計20個。

あんぱんが好物かと問われれば、塩味のあるベーコンエピやコロッケパンの方が好きと答えざるを得ず、

アンパンマンが好きかと問われれば、六角堂のBookCafeには一冊もございませんとしか言いようのない身。

それでも先日フェリー屋久島2に乗船した折には、思わず船内の売店で「アンパンマングミ」を購入してしまうような魅力がこの作品にあることは重々承知。

 

何より食べることが生きることと正義の基本であることに強く共感。

 

蛇足ながら今日配信されていた「東京経済オンライン」の京都を訪れるインバウンドのお客様の実態の断片を紹介した記事を読んで深い溜息と微かな怒りを。

toyokeizai.net

ネットに溢れる「日本食」情報にあこがれて食事付きの宿を注文しながら、伝統的な「和食」を嫌い、箸もつけずに食べ残すお客様が続出しているとのこと。

彼らにとってあこがれの日本食とは霜降り肉のすき焼きやラーメン。

そしてコンビニ弁当なのだとか。

果たしてそうした人びとの眼にあんぱんはどう映るのか。

 

食べるとは……
自分のために失われた命を頂くこと。
自分のために焚かれた火を頂くこと。
自分のために遣われた手を頂くこと。
命と火と手に感謝を捧げること。
それを忘れた食の楽しみは餓鬼への道かと。
それを顧みない人はアンパンマンに叱られること必定。
 
と言ったところでこの屋久島あんぱん巡礼もお開きとさせて頂きます。
 
敬具