屋久島六角堂便り~手紙

自然と人が織りなす屋久島の多様性を屋久島六角堂から折々にお伝えします

霰降り虹立ち昇る丸き島

拝啓

今日は朝から荒れ模様、二週続けてフェリー欠航、冬の屋久島木曜日。
ただ、〈洋上のアルプス〉を抱く円形の島ならではの風情ひとしお。

昼過ぎに島の北北東、志戸子集落のカフェkina(http://www.sds-yaku.server-shared.com/kiina/)さんへ。二十日で今シーズンは終了し、2月まで冬季休業と聞き、美味しいキッシュの食べ納めに。お店の真ん中にはアラジンのストーブに湯の沸いた薬缶、キッシュと頂いたココアで温もりました。

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ちょうど居合わせた雪苔屋(http://yukigokeya.blogspot.jp/)さんのお二人とおしゃべりしている最中、屋根が突然バラバラと。ひょっとしてと思って外に飛び出せば

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おお、今年初めての(アラレ)でした。

店を出て一路南へ。夕方で気温も下がって暗くなるはずなのに、景色は何やら明るさを増し、安房大橋にさしかかると、海からくっきり虹のきざはし。

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これはと思い、春田浜に車を回せば

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お分かりでしょうか虹のアーチ。肉眼ではもっとくっきり見えたのですが……

そのままさらに南東へ、尾之間で買い物を済ませて麦生に戻る道すがら、千壽の滝とトローキの滝をなす鯛之川(タイノコ)の大橋から見えた虹の足。

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西に暮れ往くモッチョム岳、東に虹を撮りこんだぐるりの写真。

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師走の寒空、島の最北波風すさぶ一湊の矢筈岬が能登半島なら、最南端のモッチョム辺りはミカン滴る伊豆半島か。

小さな日本、小さな地球の丸い島。そこから昇る、あるいは降り立つ虹の足に島の明日を見る思い。

“rainbow”〈雨のお辞儀〉のおもてなし。
“rainbow”〈雨の弓〉から放たれる希望の光。

一人の詩人に言わせれば


  虹の足
                 吉野弘

雨があがって
雲間から
乾麺(かんめん)みたいに真直な
陽射しがたくさん地上に刺さり
行手に榛名山が見えたころ
山路を登るバスの中で見たのだ、虹の足を。
眼下にひろがる 田圃(たんぼ)の上に
虹がそっと足を下ろしたのを!
野面にすらりと足を置いて
虹のアーチが軽やかに
すっくと空に立ったのを!
その虹の足の底に
小さな村といくつかの家が
すっぽり抱かれて染められていたのだ。
それなのに
家から飛び出して虹の足にさわろうとする人影は見えない。
――おーい、君の家が虹の中にあるぞォ
乗客たちは頬(ほほ)を火照(ほて)らせ
野面に立った虹の足に見とれた。
多分、あれはバスの中の僕らには見えて
村の人々には見えないのだ。
そんなこともあるのだろう
他人には見えて
自分には見えない幸福の中で
格別驚きもせず
幸福に生きていることが――。

「吉野弘詩集」ハルキ文庫より


しみじみと小さな地球の冬の風情を味わいに、どうぞいらしてくださいな。

敬具