拝啓
初夏の陽気に包まれたかと思えば寒気が戻ってヒュルヒュル吹く風に身をすくめがちな弥生中旬。
安房のラーメン専門店「日高屋」さんの店先にハタハタはためく幟を発見。
「特製」ならば頂かないわけには……と早速入店。
奥の壁一面にメニューボードががっしりと。
カレーうどんも気になりましたが、今日はスッキリ「日高屋カレー」を注文して待つことしばし……
工夫を凝らしたラーメンを売りにしながら何故カレーをメニューに加えられたのかと思案。
日高屋さんが入っているのは「キッチンハウス武田館」。
お隣には島有数のお土産物屋「武田産業」さんがあり観光のお客様が行き交う立地。
ちょっと食事に寄ろうかと思ってもラーメンが苦手なメンバーのいるご家族やグループ、外国人の方もいらっしゃるはず。
麺にカレーが加われば集客力もアップかと。
そういえば麦生の「ポンタン館」でもジャパニーズカレーは欧米人に人気だとか。
メインメニューのラーメンに対する「サイドメニューとしてのカレー」。
人を呼び込むカレーの力を、独り反芻しつつお店を後に。
その数日後、この仮説を確認すべく向ったのが開店して三月に満たない安房の中華屋「万福」さん。
開店時にはなかった店頭メニューシートの中央には、ちゃんと「カレーライス」が。
入り口脇のカウンターに腰を下ろし、前回食べ損ねて気に掛っていた水餃子と一緒にカレーを頂こうとメニューを再確認すると……
何という事でしょう‼「ぎょうざ」の下に書かれていた水餃子の文字が白塗りに。
聞けば、あれこれの事情でメニューから外したとのこと。
落胆した姿に余程同情して下さったのか、「良ければ作りましょうか?」とのご亭主の一言。
是非にと答え、カレーライスと一緒に頂くことにして待つことしばし……
意外にも水餃子が先着。
たっぷりの白菜と立ち上る湯気で餃子の姿は見えませんが、レンゲで掬ってみると
ゴンロゴンロと。
スッキリした優しいお味のスープにしっかりした味わいの白菜、ショウガとコショウが程よく効いた水餃子をフウフウいただくと、店主の心遣いが胃の腑に沁みて……
ジンワリ味わっているとカレーライスが登場。
そうこうするうち背中側のテーブル席にご家族連れが。
そしてラーメンと餃子とかに玉ご飯と「カレーライス」をご注文。
やはり、中華屋さんにおいても「サイドメニューとしてのカレー」は意味あるものなのだと得心。
ここで思い起こしたのが、先日六角堂明冥文庫に到着した倉本聰による戯曲『ライスカレー』(1986年理論社刊)。
1986年に陣内孝則主演でテレビ放映されたこの作品の一節
ライスカレーってのは……最初から飯の上にカレーがデレっとかかってて、
福神漬けとラッキョウがついてて、
スプーンは水のコップにつっ立って出てきて、
ジャガイモ、人参がゴテゴテ入ってて、
グリーンピースが上に三つある。
必ず三つだ。
これはキメだ。
それで、少し置いとくと上に膜が張って……
こんなライスカレーを昭和の空気が其処此処に澱む島のどこかで見つけることができれば幸いです。
敬具
屋久島カレー事情インデックス
第73回 島外編 胃袋を掴み舌に刻み込め
鹿児島中央駅西口 「匠」 黒豚バラカツカレー
トカラ列島宝島 島バナナカレー(レトルト)
徳之島 地 福咖喱(レトルト)
徳之島 地 福咖喱(レトルト)
第72回 タンカンの揺れる畑にカレー咲く
原 「冬季限定 nicoichi食堂」 ピリ辛チキンカレー
第71回 平成の終わりに昭和を食らいけり
原 「木村珈琲」 黒毛和牛のすじ肉カレーライス
第70回 香り立つうまし島ぞとあきもせず
小瀬田 「ひよりや」
麦生 「ティールーム トローキ」
第69回 ココナツの花咲きにけりカレー皿
平内 「naa yuu cafe」ココナッツチキンカレー
第68回 台風に勝てるものかはカツカレー
宮之浦 「屋久島ふるさと市場 島の恵み館」
第67回 持つものを活かし味わう恵比須顔
宮之浦 「カフェギャラリー 百水」
第66回 神山を愛でる花火に幸願う
宮之浦 「こむぎこ」
第65回 縄文の暮らし偲ばん筍の旬
横峯 「のどか」
第64回 やまがらのかれいなるひぞ梅雨の入り
宮之浦 「やまがら屋」
第63回 歳月の深めしことばあじわえり
原 「ノマドカフェ」
安房 「umi cafe」※2018年閉店
第61回 春雨に閉じて開いて萌える山
安房 「喫茶ケルン」※2018年閉店
第60回 猫舌に優しきごはん冬の海
安房 「Warung Karang」
第59回 森に虹魚介香し島カレー
宮之浦「浜焼き 悠楽」
第58回 あざなえる縄の目の間のカレーかな
鹿児島市内
「田中屋」
「鹿児島市立病院レストランだんらん」
安房 「ちーぞー」
第57回 梅雨空のひょうたん島を臨むチャイ
永田 「sea & sun」
第56回 薫る風命育む薬の島
原 「食堂 もっちょむ山荘」※2017年閉店
第55回 宮参るカレーひと匙厄払い
宮之浦「宮カフェ」
第54回 しぶとさの秘訣は迷わぬ自然体
一湊 「なっちゃん食堂」
第53回 春陽の海を越えゆく森カレー
小瀬田「moricafe STAND」
第52回 冬籠るカフェの新たな春待たん 今年最後の豆腐カレー
原 「ノマドカフェ」
第51回 勤労の香りぞ高き島カレー 夏には夏の冬には冬の味わいを
安房 「山カフェ」※2018年閉店
第50回 島の濃き緑染み入るカフェカレー 最北のカレー
永田 「水照玉」
第49回 段々の青き棚田に福来れ 爽やかな女将さんの前途を祝して
椨川 「たぶ川」※楠川へ移転
第48回 島に居て上機嫌なる腹の虫 一食の価値あるアートカレー
麦生 「DAVIS」
第47回 夏雲の島に生まれし海カレー 根っからの島民による全国民のためのカレー
宮之浦「やくしま食堂」※2018年1月閉店
第46回 赤き子の島に生まれし雨後の昼 和洋の狭間に知るカレーの深み
安房 武田館キッチンハウス「かたぎりさん」
第45回 物騒な世を鎮めるや島カレー 明日に向かって撃て
原 「ノマドカフェ」
第44回 年の瀬に飛び立ちて行く背や丸し EBI Fly to the distance
安房 「田中屋」
第43回 和も洋も隔てなきなり島カレー 受けて立った宮之浦の戦い
宮之浦「雲水」
第42回 春牧に昇る旭日を拝みけり 笑顔は究極のスパイスなり
春牧 「喜楽里」
第41回 軒先の雫気にせずカレー買う 県道脇のコンテナで作るオヤジに買うオヤジ
小瀬田 「モリカフェ」
第40回 新月に隠れてうさぎカレー食い カレーが地球を回している
麦生 「DAVIS」
第39回 人の世を写して流る秋の雲 ブタにも「六」がありました
安房 「ポルコ」※2017年11月閉店
安房 「Amara」 ※2016年閉店
第36回 あきもせず くるりくるりの島時間 港に香るカレーの風味
宮之浦 「雪苔屋」※2018年5月閉店→永久保に移転
第35回 島に逃げ極楽とんぼの島カレー 南の村の豆カレー
平内 「サウスビレッジ」※2015年閉店
第34回 透き通る海を背中に浜カレー 浜辺でスパイシー
一湊海水浴場 「カレー専門店 屋久島カレー グロース」
第33回 梅雨明けを手土産に来い11号 ここは南国
安房 「ジャングル・キッチン近未来」 ※2018年閉店
第32回 どこにでもあれどどこにもないカレー どこでもカレー
楠川 「楠川ふれあいセンターじょんこう茶屋」
第31回 梅雨空に割りてすがしきカレーパン モーニングカレーパン
尾之間「ペイタ」
第30回 海山にガッツリカレー連れテイク ガッツリ登山弁当カレー
安房 「かもがわ」
第29回 台風も賑わうアジアの交差点 パワーアップして帰ってきたAmara
安房 「新Amara 南国酒場」※2016年閉店
第28回 屋久島にアジアの緑風巡り来る 京都からやってきたアジアンカレー
安房 「かもがわ」
第29回 台風も賑わうアジアの交差点 パワーアップして帰ってきたAmara
安房 「新Amara 南国酒場」※2016年閉店
第28回 屋久島にアジアの緑風巡り来る 京都からやってきたアジアンカレー
尾之間 「バリスタイル レストラン&バー Warung Karang」 ※2017年6月より休業→安房へ移転
第27回 ラーメンをスープにさらう島カレー ラーメン屋のカレー定食
宮之浦 「王龍(ワンロン)」 ※2016年閉店
第26回 脇役のカレー目当てに蕎麦すする カレーやってます
尾之間 「手打ちそば屋」※2016年閉店
宮之浦 「王龍(ワンロン)」 ※2016年閉店
第26回 脇役のカレー目当てに蕎麦すする カレーやってます
尾之間 「手打ちそば屋」※2016年閉店
第25回 春雨に煙る木立のカツカレー 縄文登山のカレー
第23回 県道に萌え出づる春カレーあり 年季の入ったかわいい系喫茶店
小瀬田「花鈴」
※ 番号の重複をご容赦ください
第21回 対岸に香れるカレー求めけり 海を渡って
鹿児島市 「チチビスコ、スリランカ かごしま」
第13回 食べることそれは生のあかしなり 木枯らしの吹き荒れる海ボンカレー
陳列棚のカレー 2
尾之間「モッチョムビュー トーン」 ※2017年閉店
安房「田中屋」
第9回