屋久島六角堂便り~手紙

自然と人が織りなす屋久島の多様性を屋久島六角堂から折々にお伝えします

海山に響くチャイムの懐かしさ

拝啓
 
屋久島では日に三度「防災無線チャイム」が流れます。
 
朝の6時はベートーヴェンが1810年に作曲したピアノ曲「エリーゼのために」。
 
本来「テレーゼ(Therese)のために」という曲名だったそうですが、何故かエリーゼに。曲のタイトルにある「エリーゼ」とは、貴族の娘。あるところでベートーベンと知り合い、お互い恋に落ちる。しかし、ベートーヴェンは貴族ではないため、もちろん結婚はおろか恋愛関係になることも許されなかった。「エリーゼのために」の明るく愛らしいところは共に楽しい時間を過ごしている様子、激しいところは辛さ、悲しさを表しているとのこと。(参照:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BC%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AB)
 
この曲には日本でも様々な歌詞がつけられて歌われていますが、なかでも有名?なのは嘉門達夫のアルバム『娯楽の殿堂』(1995年)に収録されている「アソコに毛がはえた」。You tube(https://www.youtube.com/watch?v=RqXhZlI3nfM)で聞くことができますが、チャイムが鳴るたびに島民全員がこの歌詞を思い浮かべるようになったら、きっとアホらしくも楽しい島になるに違いありません。
 
夕方の5時は「遠き山に日は落ちて」。ドヴォルザーク作曲の交響曲第9番「新世界から」第2楽章を編曲した作品です。もっともなじみ深い歌詞は堀内敬三のもの。
 


  遠き山に日は落ちて
  星は空を 散りばめぬ
  今日のわざを なし終えて
  心かろく やすらえば
  風はすずし この夕べ
  いざや 楽しき まどいせん

  闇に燃えし かがり火は
  炎 今は 静まりて
  眠れやすく 憩えよと
  誘うごとく 消えゆけば
  やすきみ手に 守られて
  いざや 楽しき 夢を見ん


 
「やすきみ手に 守られて」とあるように、神の加護に感謝する讃美歌です。
 
若くして白血病でこの世を去ったクリスチャンの歌手本田美奈子は、次のような自作の歌詞で歌いました。
 


  時は待たず 過ぎてゆく
  哀しい時も 止まらずに
  過ぎゆく日々 刻むなら
  笑い合える 喜びを
  守りたまえ この世界
  永遠(とわ)につづく幸せを
 
  消える心 持つならば
  実る心 与えよう
  そっと そっと 少しずつ
  明日の花を咲かせよう
  守りたまえ この世界
  永遠(とわ)につづく幸せを


 
何度聴いても胸が熱くなる歌声です。音質は悪いですが、良ければYou tube(https://www.youtube.com/watch?v=D8ywTk6pRr0&list=RDD8ywTk6pRr0#t=11)でご視聴下さい。
 
この歌詞を思い浮かべて全島民が夕暮れを迎えるならば、島の夜は素晴らしく穏やかになるに違いありません。
 
夜の9時は「故郷(ふるさと)」。高野辰之作詞、岡野貞一作曲で、1914年(大正3年)の尋常小学唱歌の第六学年用で発表された歌。故郷を思いつつ、立身出世を夢見る歌です。
 


 兎追ひし彼の山
 小鮒釣りし彼の川
 夢は今も巡りて
 忘れ難き故郷
 如何にいます父母
 恙無しや友がき
 雨に風につけても
 思ひ出づる故郷
 志を果たして
 いつの日にか歸らん
 山は靑き故郷
 水は淸き故郷


「兎追いし」を「ウサギ美味し」と思い込んで歌っている方もいらしゃるかも。屋久島なら「シカは美味し」かも。屋久島高校を卒業して都会で暮らす若者は、床についてこの曲を口ずさむことがあるのでしょうか。
 
何気なく聞き流している曲も、メロディに合わせて歌詞を口ずさむ時、それはしみじみと心に染み入るのではないでしょうか。島の小学校の音楽の時間、三つの曲の歌詞の意味を先生方が教えていて下さることを願ってやみません。
 
敬具
 
PS.
屋久島のシカを販売するお店「ヤクニク屋」さんが10月29日にオープンされるとか。
どれほどの需要にどれほど供給が追い付くのか興味津々です。